【ネタバレ】映画「凶悪」の感想・あらすじ・結末/本当に怖いのは誰だ?
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白石和彌監督作品「凶悪」の感想です。
映画「凶悪」をアマゾンビデオで鑑賞しました。すごいですねこれ。山田孝之の静かな狂気に寒気を感じ、リリー・フランキーのハツラツとした狂気にときに爆笑させられる…笑っちゃいけないのだけど、笑ってしまう。だって本人が笑ってるんだもん。アウトレイジ以上に「全員、悪人」感があったような…。
「凶悪」の基本情報
監督:白石和彌
上映時間:128分
配給:日活
死刑囚の告発をもとにジャーナリストが事件の真相に迫るというベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)が原作の作品です。こんな恐ろしいことが実際に起きているのだから人間というのはまぁ恐ろしいです。
「凶悪」のあらすじ
取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。
須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。
凶悪の結末・ラスト
告発記事を雑誌に掲載し、先生を獄中に送り込んだ藤井。しかし藤井はまだ終わらないという。"二人を死刑に追いやらない限り、この事件は終わらない"と。
面会室で先生にあう藤井。異常な執着を見せる藤井に先生はこう放つ。
「ひとつ教えてやる。私を殺したいと一番思っているのは、被害者の遺族でも須藤でもない」
そう言ってアクリル越しに藤井を指差して面会室を去っていった。
凶悪の感想
キャストの狂気じみた演技がやばい
まずはこれ。主演の山田孝之・ピエール瀧・リリー・フランキーの演技が本当に上手で引き込まれます。
それぞれ三者三様のヤバさがありますが、筆者が一番やべぇと感じたのは山田孝之。あの暗い瞳。まるでブラックホールのような引力を持ち合わせたあの目がもう怖い。
しかも作中で一切笑わない。ヤクザ連中のがよっぽど感情豊かじゃないのってくらいに感情の機微がない。
作中で笑ったのって獄中で須藤が冗談飛ばしたあのシーンだけですよね。。微笑も実に冷酷な感じが漂っていてゾゾッとさせられます。「あんたほとんどの人間下に見てるでしょ」って感じの。
唯一感情を爆発させたのはこの取材が記事にできないと言われたときの「これは世に出さないといけないものなんだ」と主張する場面だけ。
ちなみになんですが山田さんインタビューで
「最初に藤井のキャラクター、それからリリーさんと瀧さんとの共演だと聞き、脚本を読み終わってすぐ決めました。やりたい、この作品に携わりたい、これは世に出さないといけないものだと思いました」
凶悪 インタビュー: 山田孝之×リリー・フランキー×ピエール瀧が提示する「凶悪」の意味 - 映画.com
と話してて「あぁだからあんなに想いがこもってたの…」と妙に納得してしまいました。
ピエール瀧は一線超えちゃったら吹っ飛んじゃう感じの恐ろしさが上手に表現されてましたね。まぁでも一番人間味があるように演出されているような気も。
リリー・フランキーに関しては「悪役を演じたという感触が希薄」とインタビューでも語っていますね。言ってることがまんま作中の三上で没入力がすごいというかなんというか…。
リリー・フランキーの演技は「SCOOP!」のほうがさらにヤバさに磨きがかかってるのでリリーのさらなる怪演を楽しみたい方はぜひどうぞ!
一番重いのは「藤井家」の雰囲気
作中ずっと重苦しい雰囲気が漂っていますが、それに拍車をかけていたのは間違いなく「藤井家」。藤井家の家庭事情がもういただけない。
冷めきった家族関係。それを加速させるのは吉村実子演じる認知症?の藤井母。ボケちゃってるけどその自覚のない母。その世話に疲れはてる池脇千鶴演じる藤井の妻。家族を包む悲壮感。そこから逃げるように事件にのめり込んでいく藤井。
この崩壊寸前の家族が「凶悪」というタイトルの全貌を浮かび上がらせます。須藤、先生らが行ってきた殺人はもちろん関係者をめちゃくちゃにする行為で間違いありません。
では、藤井の行為は?
藤井の行為は闇に葬られた殺害事件を明るみにしようとするという、ジャーナリストとして客観的に見れば素晴らしい行為と讃えられてもいいはず。
しかしそこには藤井によって理想の生活を諦めざるを得なくなった妻がいる。誰もが誰かを傷つけているという恐ろしい構図が出来上がる。
それを見せつけられている観客は「凶悪なのは一体誰なのか…」と善と悪の境界を溶かしざるを得ない。それが今作が凶悪たる所以なのではないでしょうか。
重いけど笑っちゃう
先生と須藤が殺しを犯すシーンは軽妙なテンポとリリー・フランキーの狂いっぷりも相まって笑いをこらえるのは困難かと。だって面白いし。
彼らにしたらいじめに似たような感覚ですよね。いつのまにか始まっていて、そしてライフワークになっている。
ちょっとしたお遊びがエスカレートしてしまっただけのこと。と言ってしまえば藤井の異常な執着だってそれと同じような気もしてなりません。この物語に釘付けになっている観客もあるいは…?凶悪なのは誰なんでしょうか。
まとめ
ラストシーンの指差し。見事でしたね。観客である我々が共犯者になった瞬間でした。先生とアクリルに反射する藤井の顔が重なるという演出も見事。
「仕事が忙しい…」と言って家族行事を蔑ろにしているあなた!仕事で家庭を崩壊させないように、ぜひ今作をみてください。